最高の笑顔、最強の居酒屋

環状線京橋駅から薄暗いガードを潜り、歩いて2分ほど。墓地を見下ろす道路の上にその店、京橋居酒屋とよはある。いわゆる店舗ではない。屋台でもない。厨房こそしっかりとした屋根と日除けのテントに守られているが、客が飲み食いをする場所は頼りなげな波板屋根に覆われているだけだ。露店といってもいいだろう。もちろん椅子などはない。そんな店に長蛇の列ができるのだと聞いて、面白半分で出かけた。まぐろの刺身やホホ肉のあぶり、うに、いくらなどがとびきり美味いそうだ。「最強の居酒屋」だと呼び声も。

この笑顔が出迎えてくれる

開店時刻の13時を少し回った頃に着いたが、店はすでに満杯。そして長蛇の列。観光客や外国人客も多い。けっこう寒い日だったがみんな忍耐強く並んでいた。回転も速い。とっとと食べてとっとと飲んで帰っていく。そんな感じだ。昼間の立ち飲み、しかも露店だからな。長っ尻は似合わない。
30分ほどでテーブル、いや飯台と言ったほうがいいかな、にたどり着いた。注文の仕方にもこの店のスタイルがある。一品をちまちま頼んでいたのでは埒が明かない。定番メニューに身を任せるのがいいようだ。まぐろの中トロと大盛りのいくら、かにと貝の酢の物がセットになったのを頼んだ。それに温燗を2合だ。

とても寒い日だったが客は溢れていた

料理はすぐに出てくる。さながらオープンキッチンの厨房では、威勢のいい声が響いている。目の前の客とわあわあ言いながら手を動かしているのが大将だ。あとで知ったことだが、奄美諸島の喜界島出身だそうだ。だからこの店では焼酎といえばむぎでも芋でもなく黒糖焼酎が出てくる。銘柄は「喜界島」だけ。鹿児島では「くろ酎」と呼ばれ親しまれている酒だ。

まぐろ中とろといくら、それに貝とかにの酢の物

だが大阪まで来てくろ酎でもないなと、日本酒温燗で押し通す。あわせてうなぎの蒲焼を半分注文。1人前だと900円。半分だと当たり前だが450円だ。これがまたうまい。ここまでで温燗6合。料理が来て酒がないというちぐはぐを避けるためにもう2合。真昼間だというのは忘れよう。
まぐろホホ肉のあぶりが気になっている。これは頼んでもすぐには出てこない。「まぐろホホ肉はまとめて焼きますから、お時間がかかります」と天井から紙がぶら下げられている。注文がいくつかまとまったら焼くのだそうだ。だがこの日はそんなにかからなかったが、待ったことよりも豪快な調理方法に驚かされた。

写真を撮る前に一切れ食べてしまった

大量のホホ肉を網にのせて火にかけ、さらにガスバーナで上から炙る。そうして氷水で冷やした手を炎の中に突っ込んでホホ肉をまぜっ返す。客を喜ばせる強烈なパフォーマンスだ。1人前ずつ焼いていたのではこうはならない。これには客も大喜びでカメラを向ける。僕もほろ酔いで何度もシャッター切った。

激しく音を立てる炎の中に手を突っ込む

帰りがけに大将と少々立ち話をした。あのパフォーマンスはいいねというと、
「喜んでもらってなんぼやからね」
と大声で笑った。笑顔の絶えない人だ。すべての客に笑顔を振りまく。味はもちろん、接客もいい。だけど「最強の居酒屋」という評価はこの大将の最高の笑顔に裏付けられていると思った。

鹿児島から来てくれたの!? ありがとうね!

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