立派なプロ

久しぶりに懐かしい劇場の前を通った。若い頃何度か世話になったことがある。開場までまだ時間がある。おじさんがひとり年末年始の催し物の看板を作っていた。「素人大会」だそうだ。お兄さんがひとり、立ち止まって看板に見入っている。
写真を撮るぼくに近寄ってきた。文句でも言われるのかとちょっと身構えたが、にこやかに話しかけてきた。
「素人ってなんなんでしょうね」
と。
「なんなんでしょうね」
と答えたが、逆にプロのストリッパーってなんなんだろうと思った。

50年近く前、とある劇場でアルバイトをしたことがある。その頃舞台に上がっていたおねえさんたちは、多かれ少なかれ何がしかの事情を抱えていたが、ほとんどの踊り子さんに共通していたのは、劇場が閉まったあと先を争ってステージで踊りの練習をしていたことだ。いつかは大きな舞台でと夢を語る人もいた。衣装を着けていようが、裸であろうが、踊ることが彼女たちの仕事だった。彼女たちはプロだったのだ。
「今はみんなAVクズレなんでしょ」と彼は言った。「踊りも演技もない。ただただ舞台で身をくねらせて、中には客を上げたりって……」。
その言葉の裏側には蔑みのようなものが見え隠れしていた。
この男はどれだけ人に誇れる人生を送ってきたのだろうと思った。言いたいことを言って、同意を求めるように下卑た笑いを浮かべる。だいたいなんでこんなところにいるんだ、こいつは。
さっさとその場を離れようと男に背中を向けた時、券売所の窓口が開いた。
「あれっ、観ていかないんですかぁ」
背後で声が響いた。
「そんなに暇じゃないよ」
「そうですか。僕は素人の学芸会みたいな舞台にお付き合いしてきますよ」
そう言って男は金を払い劇場の中に消えた。
あんな嫌な男の前で裸になるんだ。彼女たちは素人なんかじゃない。立派なプロだ。

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