まちを歩くと、必ずひとりやふたり、のらネコを相手に「かわいいねえ〜」「いい子だね〜」とカメラを向けるにわか岩合さんに出くわすはずだ。それほど世界中どこに行ってもネコとネコを可愛がる人々は多い。
種子島も例外ではない。いや、ある意味のらネコの島ではないかと思ってしまうほど、あちこちで可愛らしい姿を見かける。しかもネコと人の距離が極端に近いのだ。
空前のネコブームに火をつけた動物写真家岩合光昭さんに名言がある。「ネコは人間とともに世界に広まった。だからその土地のネコはその土地の人間に似る」と。この言葉の正しさは種子島のネコと人が証明してくれるはずだ。ネコたちの姿を探して、彼らをガイドにして島を巡ると、普段着の島の暮らしの風景に出会えるに違いない。ためしに南種子町の平山浜田港を訪れた。
浜田港は、太平洋の荒波で浸食された洞窟で、干潮時の洞内は千人座れるほど広いことにちなんで名付けられた種子島最大の海蝕洞窟のひとつ千座の岩屋の南にある。さらに定置網漁の港としても知られている。定置網漁は、網を一定の場所に固定して仕掛け、回遊魚を一網打尽にするという漁法だ。効率もいいし、環境にも優しい漁法だ。「網起こし」という取り上げ作業ははほぼ毎日行われている。定置網漁については別の機会に詳しく。
取り上げた魚を積んだ船が港に向かうと、魚の仕分けをするために仕分け台の周りには作業をする人に混じってたくさんのネコたちが集まってくる。最前線に陣取る丸々と太ったベテランのネコから、親ネコの影に隠れるように寄り添う生まれたばかりの子ネコまで、人間よりネコの数の方が多いくらいだ。そんなネコたちを邪魔にするような人はいない。ネコは”全員”前足をちょこんと立てて座り、港の入り口をじっと眺めて待っている。ネコたちはこれから何が起きるのか、ちゃんと知っているのだ。
船が着き魚が仕分け台に水揚げされる。大物から雑魚まで手際よく仕分けられていく。ネコたちの出番はまだだが、心はすでに祭り状態になっているに違いない。立てた前足が前に傾く。いつでも前に出られる体勢だ。そうしてついに、作業がひと通り終わるとネコたちに分け前が振舞われる。作業を終えた人たちが引けていくとネコたちの饗宴がはじまる。不思議だけど、この風景はずっと見続けていて飽きないし、なんだか幸せな気分になれる。人がネコに分け前を振る舞うように、ネコたちも分け合い、ゆっくり、たっぷり食べる。ね、岩合さんの言葉は正しい。ネコたちの楽しみはそれで終わらない。港の入り口にある一夜干しの加工場では、仕込みの途中の分け前にあずかろうとネコたちがたむろする。加工場への出入りは厳禁だが追い払うようなことはしない。ネコたちも網戸をガリガリするようなことはない。ちゃんと待っているのだ。
南種子町平山、浜田港。ここは人とネコが寄り添うように生きる小さな港町だ。
#海の象