いきいき亭近江町店@近江町市場, 金沢市上近江町
近頃金沢にはまっている。ひょっとすると生まれ育った京都より好きなまちかもしれない。京都は大きくなりすぎた。まちの規模は変わらない。が、毎年5000万人以上が観光で訪れる大きなまちになった。長年暮らしてきた京都人にとっては年々「車両感覚」とでも呼ぶべきまちの感覚を失いつつある。自分のまちではなくなりつつあると言ってもいいかもしれない。

金沢の商家。京都よりも京都らしい
端的な例は京の台所と呼ばれた錦市場だ。かつて買い物かごを持って毎日の買い物をしていたおばさんたちの姿はない。日々の食材の仕入れに駆け回っていた料理人の姿もない。そういった食材を扱う店も姿を消しつつある。残ったのは夥しい数の外国人観光客とそれを目当ての飲食店だ。およそ京都の雰囲気ではない。
金沢は京都が失いつつある情緒と景観を色濃く残している。東京からの新幹線が開通し外国人観光客は増え続けているが、金沢はまだまだ落ち着いた中にある。その情緒と景観を楽しみに金沢に出かけるのだ。

豊かさを感じさせる近江町市場の店先
21世紀美術館のような新しい施設、香林坊、片町のような繁華街もいいが、私はなんと言っても近江町市場が好きだ。観光化が否めないとはいうものの錦市場が失った情緒、景観、それにまちに対する市場としての機能が残っているからだ。金沢の台所だ。錦市場の失ったものがそこにある。
買い物をするでもなくただぶらぶらするだけでも楽しい。あちこち店を見てまわり、うまそうな地のものに目をつける。生きのいい地魚、新鮮な地野菜が並ぶ。顔馴染みになった料理屋の大将があれこれ仕入れている風景に出くわす。今夜は大将の店を訪ねることにしようなどと思う。
それよりも昼飯、いや昼酒だ。観光客の増加につれ食事を提供する店も多い。観光客目当てと言ってもいいだろう。それはどこに行っても同じことだ。店を物色しながら歩く。中には「和食の鉄人」道場六三郎が常連だという店もある。が、外からのぞくかぎりまだまだ早い時間なのにどこもそこそこ混んでいる。
ようやく腰を落ち着けたのは武蔵口の小体な寿司屋いきいき亭近江町だった。10人も入ればいっぱいになるほど小さい。横にテントを立ててテーブルの席を設えてはいたが、やはりここは待ってでも店内のカウンターにつきたい。
ほとんどの客が海鮮丼や寿司を注文している。食事をしているのだ。我々は昼酒をとやってきた。客数が限られているだけに少々気づつなくおねえさんにたずねる。「ちょっと飲んでいいですか」と。「どうぞどうぞ」ということで肴(あて)になるようなものを注文する。
白バイ貝の肝煮、トラフグの煮こごり、それに刺し盛りをと少々腹の足しにと寿司6貫。

白イカの煮物が絶品だった

白バイ貝の肝煮
つきだしの白イカの煮物でビールを2本。白バイ貝の肝煮が出てきたところで酒を。肝煮も煮こごりも実に酒に合う。うまい。刺し盛りを待っている間に隣客の頼んだ海鮮たっぷりのいきいき亭丼を見る。ご飯の上に刺身を盛った丼ではなく、ご飯と刺身が別々に出てくる。十分肴になるじゃないか。ということで刺し盛りをキャンセルしていきいき亭丼を。

いきいき亭丼ワールド

ご飯は少なめに。刺し盛りよりもボリューミーだ
いきいき亭丼にはローカル(2200円)、ワールド(3300円)と2つの種類がある。ローカルは地元でとれた魚ばかり、ワールドは地中海のマグロなども入る。ちょっと思案したがワールドを注文した。言うまでもなく、これは酒の肴にピッタリだった。他にも海鮮丼には様々な種類がある。

おねえさんたちの着ているTシャツのバックプリントが気になった。金沢の方言らしい。この地に縁のある同行者が京都弁に翻訳してくれた。
あほちゃうか
やるで!
やる時はやるんやで
やらなあかん時は
やらなあかんねん
それが今や!
そやろ やってよかったやろ
こんな感じだという。陀羅は「アホ、バカ」の意味だが愛情がこもった「アホやなあ」くらいの意味だと。なるほどな、と思う。愛情のこもった叱咤と言うわけだ。その言葉、ありがたく頂戴して昼酒は続いた。小体な店で長居は申し訳ないなとは思いつつ席を立って英語の張り紙が目についた。

食べられるだけ注文しろ。もし食べ残したら1時間皿洗いをしなくてはならないと。完全に外国人観光客向けだ。いいなと思った。観光客の食べ残しはあちこちで見かけた。金を払ったんだからどうしようと勝手じゃないかと言われそうだが、そこはちゃんと考えて注文しようよと。ごく当たり前のことだが、わざわざこんな張り紙をしないといけないなんて。提供する側として残念な思いをしてきたんだなと少々同情してしまった。金沢にまた1軒お気に入りの店ができた。

本日のとれたてにぎりは6貫で1500円だ

いきいき亭 近江町店
金沢市青草町88近江町市場館1F
月〜木:7:00~13:30
金〜日:7:00~14:30
TEL:076-222-2621
価格・営業時間などは直接お問い合わせください