働くことと生きること

ずいぶん前のことだ。取材撮影で種子島を駆け回っていた。中種子の高台にあるサトウキビ畑から、夕焼けに染まった海と空の間に屋久島がくっきり見えた。しばらくの車を止め、その風景に見入っていた。
「きれいだろ」
突然後ろから声をかけられた。振り向くと人の良さそうな老農夫が笑っていた。傍で奥さんだろうか、女性が車に草刈機を積み込んでいた。どうやら1日の作業が終わったようだった。おばさんも笑顔で手を動かしている。

「今日は特にきれいだ。毎日この風景を見ているけどな」
おじさんが言う。おばさんも黙ってうなずく。
「今に屋久島をかすめて陽が落ちる。その時はなんとも言えずきれいだよ」
僕は老夫婦と一緒にその瞬間を待つことにした。その間に2人といろんなことを話した。サトウキビのこと、仕事のこと、種子島のこと、屋久島のこと……。
1日が終わろうとしているその時、年老いた2人の働くことと生きることはちゃんと重なっていと思った。サトウキビ畑で出会った老夫婦は、自然とひとつになって働くこと、生きることは素晴らしい。目の前の風景はそんなことを教えてくれた。

#海の象