夏には夏の、秋には秋の……

魚八商店@京橋,大阪市都島区

大阪の夏は暑い。夏だから仕方がないなどという話ではない。繁華街に出てみればわかる。平日の日中にだ。京橋あたりがいいだろう。立ち飲み屋や立ち食いうどん屋は間口を開け放しで、客は汗をかきかき酒を飲み、うどんをすする。迷路のような路地にまで酔客が行き来し、一人ひとりが相当な代謝熱を放っている。人間ヒートアイランド現象だな。そんな暑さの最中、我々は昼飯、いや昼酒の店を探して彷徨った。馴染みの店が満席だったのだ。一際目立つ看板があった。大きさもさることながら『24時間営業』という文字が目についたのだ。コンビニでもあるまいし、営業時間で勝負か。しかも店内は空いている。たいしたことなさそうだな……。

壁とにらめっこ

そう思いながらも暑さに耐えかねて飛び込んだ。壁際の席に通された。壁と向き合って座る。妙な感じだ。オススメの酒や肴の品書きとにらめっこだ。ますます期待できないなと思いながらビールと鰹のタタキ(748円)、水茄子浅漬け(418円)、ポテトサラダ(418円)、彩ぬた和え(468円)、シャケのハラス(638円)と一気に頼んだ。しばし涼んでとっとと飲んで食べて、次の店を目指そうとしたのだ。ビールを飲み、最初に出てきた鰹のタタキを一切れ口に運んだ。

鰹のタタキ

「おやっ!?」思わず動きが止まった。これがなかなかイケるのだ。さらに彩ぬた和えは彩をうたうだけあって、タイ、マグロ、タコ、イカといった海鮮に薄揚げ、ミョウガ、ワケギ、ダイコンが酢味噌で和えられていた。彩も鮮やかだが、思わず笑みのこぼれる優しい味だった。営業時間の長さを売りにしているだけじゃないな。料理も大したものだ。カウンターの向こうでは数人の料理人が忙しそうにしている。

彩ぬた和え

そうこうしていると2階から客が降りてきた。どうやら4人以上のグループは2階へ上げられるようだ。おねえさんが言うにはほぼ満席だそうだ。我々のいた1階もその後4人、3人と客が入りほぼ満席になった。なかなかの人気店、繁盛店だったようだ。

スイスイ飲めるまさに夏向けのお酒 白麹純米酒瀧自慢

ビールから日本酒に。目の前に張り出されたオススメに負けたのだ。『白麹純米酒 瀧自慢』(770円)三重の酒だ。「スイスイ飲めるまさに夏向けのお酒です」と。一気に暑気払いができそうな……。その惹句に負けて杯を重ねる。何か酒に合う肴をと、エイヒレ(418円)ともずく酢(418円)と思ったがざるもずく(528円)が目についた。ざるにあげたもずくをそうめんかそばのように付け出汁で食べるそうだ。ではそれを。このざるもずく、量も多くて麺類やごはんものの代わりに〆の一品として注文する客も多いとか。

エイヒレ炙り

ざるもずく。夏酒の〆にはよく合う

さらに杯を重ねながらメニューを見る。海鮮丼やお茶漬けはもちろん、にぎり寿司もあるではないか。「酒も料理も充実しているな」と独言ると同行者が「24時間営業ということは、近辺で営業っているお店の人が店が終わった後に寄るってことだから玄人相手でしょう。まずいはずはないよねえ」と言って返した。ここは再訪に値するなと。

本日のカマ焼きはシャケのハラスだ

たしかにな。夏には夏のこのうまさ。秋には秋の、冬には冬の、春には春の……。四季折々のうまさが味わえるに違いない。そう思わせる実力を感じた。
これまで良い酒場を嗅ぎ分ける嗅覚を売りにして酒場探訪の本を何冊か書いてきたし、テレビやラジオの番組も担当してきた。だけど、俺の嗅覚なんて、印象なんて、大概いい加減なもんだなと酔いが回るにつれて恥ずかしさの募る昼酒だった。

大阪市都島区東野田町3丁目11−19
地魚酒場 魚八商店 京橋店

https://uohachishoten.owst.jp
値段、営業時間などは直接お問い合わせください

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