誰にも訪れる人生の物語を、徹底的に寄り添うことで描きあげる。


清水哲男の本「揺れて歩く ある夫婦の一六六日」(エディション・エフ刊)好評発売中です。

60歳になった時、思いました。
ぼくはあとどれくらい生きられるのだろうかと。
平均的な余命は20年あまり。その間に何ができるのだろうかと。その背景には、若い頃思い描いていたような道のりを生きてきたのだろうか、生きるとはいったいどういうことなのなのだろうか、そんなことを思い続けてきた自分がいます。
そんな時父が末期の肺がんだと告知され、平均的な余命は6カ月程度だと宣告されたのです。
父は、何もせずに死を待つという道を選びました。もう、充分生きたと。
それを受けてぼくは父に残された時間すべてをつぶさに記録しようと思いました。市井の片隅で生きる無名の父です。その死への道程に、死とは何か、生きる意味とは何かが見えるのではないかと思ったのです。死に直面して、人は最後の時間をどう生きるのか。後に続くぼくにとっては、父に死に方のコツのようなものを、最後に教えてもらいたいと思ったのです。
そこには父を支えてきた母の父の死への思いはもちろん、最後になにを伝えあいたいのか、ふたりで最後の時間をどう過ごそうとしているのかを含めて、ちゃんと見ておきたい、記録しておきたいと。それを通して、死をめぐる人々のありのままの姿を普遍的に描けないか。まだまだ死は自分の問題ではないという若い世代の人たちにも、死というものを通して生きるということの意味を考えてほしいと思いました。
この本は、ぼくの両親の物語ですが、誰の親にも、そして誰にでも訪れる物語なのです。

清水哲男

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